壊れないギターの設計方法
ギター製作者のアンディ・ホルト氏のサポートを得て、サンドビックが世界初となる破壊不可能なギターを製作した方法について、インサイドストーリーを紹介。
ギター製作者のアンディ・ホルト氏にとって、金属製のギターを作製することは珍しくない。しかし、サンドビックが世界初の破壊不可能なギターを製作したいと考えたとき、英国を拠点に活動するデザイナーの彼は、自身のスキルと想像力を限界まで高めなければならなかった。時に、彼が「狂気」と紙一重と称したそのプロセスは、最終的にはフライス加工された鋼材と3Dプリントのチタンによる実現可能性の限界を広げることにつながった。その結果、ロックギターの名手であるイングヴェイ・マルムスティーンでさえも破壊できないユニークな楽器が完成した。
「このようなスケールで行われたのを、見たことがある人は多くないと思います」。このように、ホルト氏は設計プロセスについてメタルワーキングワールドのインタビューで語った。「このギターの製作方法はまったく新しいものであり、まさに可能性の限界でした」。
すでに、サンドビックのオールメタルギターをロックコンサートで破壊しようと試みるマルムスティーンの動画がインターネット上で広まっている。しかし、優れているのはギターの頑丈さだけではない。全体のデザインが非常に複雑であり、これが、すべてステンレス鋼とチタンで作製されているとは信じがたいのである。

通常は、アルミニウム製のギターを製作しているDrewman Guitars社のホルト氏は、メタルワーキングワールドで紹介されてからサンドビックに注目されるようになった。しかし、サンドビックの「Let's Create」チームから、このプロジェクトについて最初にアプローチを受けた当初、彼はいたずらで冗談を言われていると思っていた。
「所持金4ポンドで、私たちに1万ポンドのギターを作ってほしいというティーンエージャーがよくいるのです」とホルト氏は言う。「これも、その1つだと思いました。だから、その電子メールはすぐに削除して、いつもどおりの生活を続けました」。
しかし、サンドビックはこれが冗談ではないことを明らかにした。ホルト氏のギターデザインの専門知識とサンドビックの最先端の技術と機械を組合せて、ギターを粉々に破壊しようとするロックスターの最強の攻撃にも耐えられる、完全に演奏可能なオールメタルギターを生み出すというアイデアがあったのだ。

ホルト氏は、サンドビック・コロマントを含むサンドビックマシニングソリューションやサンドビックのアディティブマニュファクチャリング部門を自由に活用できることになった。克服すべき大きな課題がいくつかあることはわかっていたが、それほど説き勧められなくても、彼はそのアイデアに賛同することができた。
「ギターの弱点は、ネックとボディのつなぎ目だということを誰もが知っています」とホルト氏は述べる。「そこで、私は、それが要因にならないようにギターをデザインする方法を考えなければなりませんでした。それが、本当に最大の課題でした」。

ネックとフレットボードを1つのスチールブロックからフライス加工して、ギターのボディ中央部分を形成する長方形の「ハブ」に拡張し、独自の構造を作り出すというソリューションが採用された。これは、ネックとボディの間に、通常であれば最も弱い場所となる接合部がないことを意味した。
しかし、ホルト氏が設計上の主な問題を解決したと思った矢先に、すべてを再検討する必要性が生じた。設計の開始時には、ギターを破壊しようとするアーティストが誰か、彼は知らされていなかったのである。スウェーデンロックの伝説的ギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンがその挑戦に応じたとき、ホルト氏はデザインを彼の通常の仕様に合わせなければならなかった。
「イングヴェイ・マルムスティーンの参加がわかったときには、すでにコンセプトができていました」とホルト氏は振り返る。「でも、やり直すしかありませんでした。なぜなら、彼は使い慣れたものと何から何まで同じでなければ演奏しないつもりだったからです」。

それにより、デザインが変更され、ピックアップは2つから3つに、音量コントロールは2つから3つになり、マルムスティーンの演奏スタイルに合わせて独自の方法で削り残し加工(スカラップ)されたフレットボードを使用することになった。
もう1つの大きな問題は、使用される高品質のスウェーデン鋼が、ホルト氏が用いていたアルミニウムよりもはるかに重いため、重量を抑える方法を見つける必要があることだった。そこで、彼はコンピューターモデルを徹底的に調査して、ミリメートル単位で厚さを削ることができる領域を探し出した。
「削り取って軽量化できる部分を探すために、私はサンドビックのチームに何週間も日々、新しい図面を送っていました。本当に、このようにしてのみ問題を解決することができました」(ホルト氏)。
「ハブ」は、サンドビック・コロマントが再生ステンレス鋼と5軸旋盤を使用して製造した。また、ギターを可能な限り軽量化するため、サンドビックはネックの内側部分に等方性軽量構造(Isotropic Lightweight Structure、ILS)を採用した。これは、世界最軽量かつ最強の鋼構造と称されている。合わせて200以上のさまざまな加工作業は、すべて同じ旋盤で行われた。

「私たちは、原料を機械に投入し、完成したハブまたはフレットボードが出てくるという方法を使いました。合計約140キロの未加工物を使用して、製造されたギターのネックは重さが3キロ以下でした」。このように、サンドビック・コロマントの加工プロセス開発担当者のHenrik Loikkanenは言う。
フライス加工のもう1つの重要な要素となったのは、高度なアルゴリズムを使用して特定のプロセスに適した工具と機器を選定するためのデジタルシステムである、コロマント・ツールガイドだった。
「適切なパラメータをシステムに入力すると、必要な工具と切削データが自動的に提示されます」と、Loikkanenは述べる。
さらに重量の問題に取り組むために、チームは残りのギターボディを3Dプリントされたチタンで作製することにした。しかし、3Dプリントチタンのサイズは最大400x400ミリメートルに制限されるため、そのことも課題になった。
「ギターのボディは、これよりずっと大きいため、プリント可能で、なおかつフライス加工されたビットに合うように楽器のサイズを小さくしなければなりませんでした。そのため、音量コントロールの位置や楽器のサイズ、そして、それ故に重さとバランスと中心点を変える必要があり、非常に困難な課題でした」(ホルト氏)。

そして、サンドビックのアディティブマニュファクチャリング部門がヨーロッパで最も高性能な3Dプリンタを使用してギターボディを製造した。ホルト氏にとって、これはまったく新しい経験であり、いささか神経のすり減るものだった。
「何千ポンドもの価値のあるチタン粉末をこのレーザーに投入して、ギターが出て来ることを願うんですよ」と彼は言う。「幸運にも、うまく加工できました。本当に素晴らしいことです」。
プロジェクト全体では、最初の概念的なアイデアからプロジェクト完成まで、約4カ月しかかからなかった。そして、これにはストックホルムでマルムスティーン本人と一緒に数日間にわたって実施されたデザインと材料のチェックが含まれる。
「彼は、とても熱心でした」とホルト氏は振り返る。「本当に感じよくて、礼儀正しく、徹底的にプロフェッショナルでした。ロックスターと一緒に仕事をするのは大変だという話を聞いたことがありますが、イングヴェイさんは違いました。彼は、素晴らしい人ですよ」。
製造段階そのものでは、完成まで約1カ月かかったが、サンドビックでは初めてのギター製作だったことを考慮すれば、これは非常にスピーディだった。
「私たちにとって、今回の最大の成果は、当社の異なる部門が協力することによって、信じられないほどの相乗効果が生み出されるとわかったことです」とLoikkanenは語った。「私たちには、さまざまな分野における幅広い専門知識があり、これを新たな課題に取り組む際に活用できます」。
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世界初の壊れないギター
サンドビックは、いかにして最先端の持続可能な技術を使って、高精度かつ驚異的な耐久性を持つものを作ることができるかを実証するために、全社からエキスパートを集めた。