グラフェンを活用して水不足を解決
ブラジル出身のナディア・イヤド氏が、一般家庭向けの海水脱塩ソリューションにグラフェンを活用するという革新的なアイデアで、サンドビック・コロマントの「グラフェン・チャレンジ」の優勝者に輝いた。
ブラジルの大学生、ナディア・イヤド氏が、2016年春に開催されたサンドビック・コロマントのグラフェン・チャレンジで優勝したアイデアを得たきっかけは、未だ解決しない水不足の問題だった。23歳のイヤド氏は、家庭用の濾過装置と海水脱塩システムを設計し、グラフェンを利用した飲料水のリサイクルにより、エネルギーコストや飲料水供給の負担を削減できると考えた。
「水資源はますます限られていく一方です。」と彼女は言う。「国連の調査によると、2040年か2050年には水不足に陥る地域があるため、既存の水資源の処理方法を見出し、次世代で利用できるようにすることが必要です。」

2016年の4月から5月にわたって実施されたグラフェン・チャレンジは、次世代のエンジニアを対象に、現代の家庭生活でグラフェンを活用する革新的かつ持続可能なアイデアを募るコンペティションだ。工兵軍研究所 (Instituto Militar de Engenharia) で材料工学を専攻するリオデジャネイロ出身のナディアは、このチャレンジのことを聞いて興味を持った。「グラフェンについては、非常に魅力的な特性を持ち、将来大きな役割を果たすであろう素晴らしい素材だと授業で聞いたことがありました。
私はグラフェンについて調べ、応募することにしました。」と彼女は語る。
「グラフェンはまだ高価なため家庭での利用は実現が困難ですが、前よりははるかに安くなってきたという記事を見ました。」
ナディアがグラフェン・チャレンジに応募したアイデアは、家庭用脱塩ユニットのフィルターとしてグラフェンを利用するものだ。グラフェン製フィルターによって、彼女が考える装置は同様の既存装置よりも速く機能するという。

グラフェン・チャレンジの優勝者として、ナディアは11月にスウェーデンに渡航し、サンドビケンにあるサンドビック・コロマントの本社とチャルマース工科大学のグラフェン・センターを訪問する予定だ。
ブラジルが現在直面している経済危機のため、工学部を卒業した彼女の仲間の多くは職探しに悪戦苦闘していた。しかし、彼女は以前からずっと研究者になることを目指しており、ゆくゆくは生体材料と生体組織工学を専門にしたいと考えている。
「医療分野が好きなのです。」と彼女は言う。「エンジニアリングのアイデアを応用して、人々が現在では治療が極めて困難な病気を克服する手助けをし、大きな違いをもたらすような製品を作れるようになりたいと、心から願っています。」
ナディアはまた、未来の世界においてエンジニアリングが果たす役割に心を躍らせている。
「私たちは、エンジニアリングが様々な方法で利用できると理解していますが、そのためには人々のサポートを得て、それを持続可能にものにするニーズに向き合う必要があることも同時に知っています。」と彼女は続ける。「進歩を認識し、進歩が持続可能でなくてはならないことを認識するのなら、エンジニアリングはこの道筋に従う義務があります。そして間違いなく、世界は今よりもさらに持続可能な方向に向かうでしょう。」
脱塩膜としてのグラフェン
グラフェンの膜は、家庭排水処理システムのろ過装置として利用し、洗濯機や台所のシンク下から排出される水をろ過して飲料水に変えることができる。これによって、排水処理設備のエネルギー消費の削減や飲料水供給の負担の緩和が期待される。
優勝したナディア・イヤド氏のソリューション
グラフェン・チャレンジの応募フォームに記されたナディア・イヤド氏のソリューションの説明は以下の通り:
グラフェンは材料科学において最も有望な素材となりつつある。これまでに報告されている多くの特性はいずれも魅力的なものだ。伸縮性があり、透明で超伝導、気体や液体を分子レベルでろ過する能力を有する。熱伝導性と導電性に優れ、光をエネルギーに変換し、強度重量比は鋼の200倍にもなる。また、生産コストも低減を続けており、グラスゴー大学の研究チームは、大面積のグラフェンシートを従来の100分の1程度のコストで安価に製造する方法を開発した。
しかし、私にとって最も魅力的なのは、グラフェンをろ過装置に適用する分野だ。マンチェスター大学の研究チームは、「酸化グラフェン膜による精密かつ超高速の分子ふるい技法 (Precise and Ultrafast Molecular Sieving Through Graphene Oxide Membranes) 」と題した論文をサイエンス誌で発表した。グラフェンは乾いていると真空状態を作るが、細孔構造のグラフェンを水に沈めると、直ちに2層分の水分子と径の小さいイオンが高速で通過できるようになり、その速さは拡散プロセスから予測される速度をはるかに上回る。分離特性に関して言うと、高い毛細管力が径の小さいイオン(9オングストローム未満)の精密な透過を助ける一方、径の大きいイオンは効果的に遮断される。

この論文発表をきっかけに、脱塩膜としてのグラフェンの可能性に関する、さらに多くの研究が進められてきた。現行の脱塩方法は逆浸透膜をベースとしているが、グラフェンを利用した脱塩膜の透過速度は、最高の逆浸透膜よりも1桁以上速いことを様々な研究が示している。これにより、脱塩プロセスのエネルギーコストを大幅に削減することができる。
グローバル化の進展に伴い、地球上の飲料水供給はますます限られている。世界の人口の約40%が水ストレスの高い地域に居住している計算だが、この数字は2025年には約50~65%に上昇すると予測される。さらに、2050年には世界のほぼ半数の人が水不足の地域に居住し、しかも世界の人口増加の90%がこのような地域に集中するという。
持続可能な家庭生活との関連では、グラフェン膜は排水処理のろ過装置としての利用が可能だろう。この装置は雨水および洗濯機や台所のシンク下から排出される水をろ過し、飲料水に変える。また、海に近い住居ではグラフェンを海水の脱塩にも利用して、浄水供給にかかるコストをさらに削減できる。
したがって、酸化グラフェン膜を雨水貯水槽や個別家庭用排水処理装置の配水管に取り付けることで、家庭で使用される水を再利用でき、排水処理に費やすエネルギーや現行の飲料水供給にかかっている負担も低減することが可能だ。これによって、グラフェンはさらに持続可能な世界を構築するための私たちの取り組みにおいて、非常に重要な素材になる。